皆さん、こんにちは。2025 Miss SAKE Japan 館農知里です。
7月31日(木)、TKP市ヶ谷カンファレンスセンターで開催された「海外日本酒市場開拓セミナー」に出席し、世界各地で活躍されている講師の皆さんの貴重な講義を聴講させていただきました。
開会のご挨拶「直近の日本酒輸出の動向について」
(登壇-松崎 晴雄氏:㈱SAKEマーケティングハウス代表取締役)
今回で二度目の開催となる「海外日本酒市場開拓セミナー」。松崎さまより、直近の日本酒輸出の現状についてお話を賜りました。
訪日外国人観光客の増加と共に、海外に向けた日本酒輸出も年々増加傾向にあります。そんな中で、輸出量・輸出額ともに一定地域に偏りがあり、対米関税問題などで様々な弊害が生まれてきているという日本酒市場。特に、アメリカからの間接輸入が多い中南米地域では、日本酒流通における将来的な懸念を抱えています。こうした状況だからこそ、いま日本からの日本酒の直接輸出増加の未来が期待されています。特に、中南米料理(ペルー・ブラジル等)の人気高まりや同地域への旅行客増加を背景に、「中南米諸国」が日本酒業界における「戦略的マーケット」として注目を集めています。そんな中南米地域と切っても切り離せない関係にあるのが、かつての宗主国であり同じ言語圏の「スペイン・ポルトガル」の二カ国です。両国ともに1~2億円規模の日本酒市場が展開しており、今後日本からの直接輸入増加などにも期待が高まっています。
今回は、そんな日本酒市場において注目を集めている中南米諸国・スペイン・ポルトガルへの日本酒輸出をテーマに、実際に各国で活躍されている講師の方々の貴重なご講義を聴講させていただきました。
セミナー①「急成長するスペイン・ポルトガルの日本酒市場」
(登壇-笹山 繭子氏:スペイン・ラテンアメリカ日本酒普及協会会長)
スペインは、日本と比べると面積は1.34倍/人口は半分ほどで、市場規模はそこまで大きくありません。しかしながら、スペイン語話者は全世界で約5億人おり、中国語に次ぐ世界第二位の言語圏を形成しています。日本酒輸出においては、2024年には輸出額が世界第17位となり、前年比132%と急成長を続ける国です。そんな中でキーワードとなるのが「ガストロノミー」の高まりです。食文化にかける金額が大きく、日本酒1Lあたりの金額は、世界「第3位(約840円)」。次の日本酒市場として注目を集めています。
<日本酒を広める上で大切なのは「教育」>
講師の笹山さんは、2015年にスペイン最大の日本酒輸入卸売業者にて日本酒部門のマネージャーに就任され、長年スペインにおける「食」と「日本酒」に深く関わられてこられました。2017年には、初のスペイン語SSI認定唎酒師講師として活躍され、2023年にはスペイン語日本酒ガイドブックである『El Mundo del Sake(日本酒の世界)』を発売し、加えてスペイン語日本酒講座「Sake Master」も発足するなど、日本酒における「教育」に精力的に取り組んでこられました。印象的だったのは「日本酒を広める上で大切なのは『教育』」というお言葉です。「日本酒」の認知を広める上では、現地での普及に深く関わる「ソムリエ・レストラン関係者」や「インポーター」、そして最終的には「一般ユーザー」まで、正しい日本酒の知識と理解を普及させることが何より大切という視点から新たな学びをいただきました。現在は、スペイン・ラテンアメリカ日本酒普及協会会長を務められ、今年2025年にはスペイン初の日本酒&日本食展示会「Iberkanpai」を主催されました。
<Iberkanpai(イベルカンパイ)について>
スペインでは、元々日本酒インポーター同士の交流・情報交換の機会が少なかったそう。笹山さんは、2024年に大使館共催のもと日本酒試飲会を開催する中で、インポーター同士の交流機会の重要性を実感されました。そこから、スペイン初の日本酒&日本食展示会「Iberkanpai(イベルカンパイ)」開催が実現しました。会場では、試飲・試食展示/セミナー/インポーターとの商談ミーティングなどが幅広く実施され、初回開催ながら全52社が出展し、二日間で合計約800人(出展者含む)が来場されました。出展者からは「スペイン人の日本酒知識の多さに驚いた」という声が聞かれるほど、スペインを中心としたヨーロッパ地域での日本酒人気の高まりと情報発信における需要の高さを実感する機会になったと言います。特に現地では、スペイン産のフルボディワインの濃厚さと類似する側面がある「熟成酒」や「古酒」が人気を集めていたそう。当初の目的である「スペイン人・ポルトガル人と日本人生産者を繋ぐ」、そして「彼らの日本酒に対する知識や理解を深める」という二つを同時に実現する貴重な場となりました。
<なぜ今スペイン市場が熱いのか…?>
スペインにおける日本酒市場が盛り上がりを見せる背景として、いくつかの要素があります。
一つ目が「美食大国」としての側面。2025年に「世界トップレストラン上位10店」のなかに2店以上ノミネートされたのは、スペイン・ペルーのスペイン語圏だけだったそう。また、食文化に対する価値観の高さとともに、日本と類似した食文化の中で、高級レストランでは必ずと言っていいほど「2-3種類ほどの日本酒」が用意され、料理とのペアリングが楽しまれていると言います。
二つ目が「教育の普及」です。笹山さんをはじめとする専門家を通じた日本酒教育により、インポーターやレストラン関係者などの日本酒知識が向上し、ペアリングにおける日本酒の需要が高まっているそう。
三つ目が「インポーターの増加」です。現在では、スペイン国内に13社ほどのインポーターがビジネス展開しています。税関コストや小規模な市場規模による制約があり、日本から直輸入している会社は少ないものの、年々市場の健全化が加速していると言います。他にも、ブランドや銘柄にこだわらないという「消費者特性」や、しっかりとした酸と香り・味のギャップが特徴の「熟成酒人気の高まり」など、日本酒市場拡大に向けた環境が整いつつあるということを知り、遠く離れた地域での日本酒熱の高まりに驚きました。
大規模な人口のスペイン語圏-そんな一言語圏の情報発信地であり、また別地域から多くの観光客が訪れる地域でもある「スペイン」。今後、ソムリエやレストラン関係者への教育や、一般ユーザーも楽しめる日本酒イベントなどを通じた情報の周知により、日本酒市場として拡大していく可能性を秘めていることを認識でき、深い興味・関心を抱きました。貴重なご講義をいただいた笹山氏に感謝申し上げます。
セミナー②「有望な中南米の日本酒・日本食市場」
(登壇-古谷 幸暉氏・コンサルタント)
日本から遠く離れた中南米。今まさに経済発展を進めている途中の地域ですが、現時点でもその市場規模はなんと「ASEAN+インド」と同等程度だと言います。中でもコスタリカは、九州と四国を合わせたほどの面積に、人口は約521万人ほど。その中に日本人350人が在住しており、日系人が日本食普及に貢献している側面も強いそう。アメリカとの密接な関係性の中で、健康志向かつエコツーリズムを求めるアメリカ人訪問客も増えている地域です。そして今年は、日本とコスタリカの国交樹立90周年という節目の年でもあります。
<「日本食ブーム」に沸く中南米地域>
講師の古谷さんは、2015年から専門商社で勤務後、JICA青年海外協力隊としてエクアドルへ赴任したことをきっかけに、中南米地域との深い関わりを持つようになりました。2021年には、フィリピンとコスタリカの大学院で修士号を修得。2023年からは、在コスタリカ日本大使館専門調査員として、同地域での日本酒普及活動を推進されてきました。特に、大使館を通じて、日本酒普及セミナーや文化交流行事での日本酒紹介など様々な活動を実施されてきました。
驚いたのは、中米コスタリカでの「日本食ブーム」についてです。健康志向やアニメ文化を背景に、日本食(寿司・ラーメン・ウナギなど)が人気を集めているそう。現在では、中南米だけで約12900店舗の日本食レストランがあり、2年間で約二倍になる程の急成長ぶりだと言います。また、日本政府から任命される「日本食普及のための親善大使」は、その中で海外に在住する156名のうち21名が中南米地域にいるそうです。こういった特徴が、コスタリカをはじめとする中南米地域で日本食や日本酒を普及する足掛かりとなることが期待されています。
<日本酒市場の「ブルーオーシャン」>
日本酒市場としてのコスタリカは、CPTPP(包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定)への加盟申請がなされており、今後日本からの輸出が増加する可能性を秘めている地域の一つです。現時点でも、日本酒輸出市場規模は中南米地域で第7位であり、一部の日本酒愛好家層の間では個人空輸も見られているそう。その点では、コスタリカはまさに「ブルーオーシャン」であり、まずは現地人向けの市場開拓や、ターゲットを特定した上での価格やストーリー設定を通して、日本酒認知を広めていくことが求められています。現在は、特にアニメ文化や日本食ブームを反映した施策や、高級志向の富裕層向けの化粧箱入り高級日本酒などのニーズが高いと言います。一方で、日本からは空輸で2日以上かかる場合もあり、海上輸送だと最低で二週間程度を要するなど、コスト高に繋がりやすいという懸念もあります。今後は、在外公館やJETROなどとの連携強化や、現地との姉妹都市やオリンピックホストタウンなど、地域同士の繋がりから、新たな日本酒交流を生み出すことが有効ではないかとおっしゃる古谷氏。他の地域とは異なる、「地域間の繋がり」に注目したアプローチと視点が大変新鮮でした。
日本からの認知がまだ低いコスタリカですが、アニメ文化や日本食ブームの中で少しずつ注目を集めていることを知り驚きました。一つの国の中でも、やはり一人ひとりの日本酒認知や、一つのイベントを通した日本酒体験が、その国内における日本酒普及を後押しするのだということを学ぶことが出来ました。Miss SAKEとしても、世界各地の日本酒に関連する現状やニーズを把握し、効果的な提案ができるような素養を磨いていきたいと思いました。
報告「注目のチリ日本酒市場とコンペティション”カタドール”」
(登壇-小泉 和貴氏:日本酒輸出会社「Be-Bridger㈱」代表取締役)
講師の小泉氏は、もともと半導体関連メーカーで営業職を担当。その後、二年間のカナダ移住を経て、現地で日本酒の可能性に気付いたそう。帰国後、2021年には日本酒輸出会社Be-Bridger株式会社を設立され、現在は香港・チリ・オーストラリア・ドイツとの取引を行われています。現在は、在チリ日本大使館での日本酒セミナーやBtoB試飲会なども開催するなど、日本酒の現地普及に尽力されています。
<日本人気が高まりを見せる「チリ」>
南米大陸に南北に細長く伸びる国土が特徴のチリ。人口は、日本の2割以下です。しかしながら、日本人とも類似性のある勤勉さと内向的な国民性もあり、政治経済の安定性が特徴です。特に、近年では日本のアニメ文化が若い世代を中心に浸透しており、日本食や日本酒にも注目が集まっています。特に、全人口の3割ほどが集中する大都市サンティアゴには、日本食レストランが200店舗以上存在し、日本酒銘柄が50-60種類ほど取り揃えられているなど、輸出量・輸出額共に年々増加傾向にあります。一方で、課題も抱えています。特に、日本酒の認知度がまだまだ低いこと、そしてその背景にある飲用機会が少ないことが挙げられます。また、一般市場や流通網などのチャネルが限定的であることも今後の課題です。
チリにおける日本酒消費の特徴としては、メイン顧客がレストランであり、フルーティで甘めな華やかな日本酒が人気で、国内価格の3-4倍の値段で販売されているそう。また、飲食店では飲みやすいSAKEカクテルも人気を集めています。そして、瓶で酒類をオーダーする習慣があること、そして日本酒の価格が高価なことから、少量瓶の需要が高まっているそうです。
<ラテンアメリカ最大の酒類コンペティション「カタドール」>
カタドールコンペティションとは、ラテンアメリカ最大の酒類コンペティションで、2025年で30回目を迎える歴史と権威ある大会です。ワイン部門の中にSAKE部門が併設されており、41社97銘柄の日本酒が出展されました。小泉氏は松崎氏とともに、日本側から運営サポートに携わられたと言います。完全ブラインドテイスティングで、ワイングラスを用い、1グループ5-6名でジャッジを行う審査方式が特徴のカタドールコンペティション。SAKE部門では、上位入賞は吟醸系が多い傾向にあり、「最高金賞(Major Sake)」に選出されると、現地での販促活動にも直結する重要な機会になっています。チリが現在抱えている日本酒の認知度の低さや流通網の不足といった課題に対して、カタドールを活用した魅力発信が求められています。
セミナー③対談「拡大するブラジルSAKE市場」
(登壇-ファビオ オオタ氏:日本酒輸入会社「MEGASAKE」社長/聞き手-松崎 晴雄氏)
<日本酒を広めるための「Sake Education」>
講師のファビオオオタ氏は、長年弁護士・会計士として活躍され、現在は日本酒輸入会社MEGA SAKEの社長を務められております。会社では、サンパウロに3店舗/オンラインに1店舗を有し、取り扱いレストラン数は国内500店舗を超えているそう。日本からの輸入コンテナは「-5℃」に徹底管理するなど、徹底的な品質保持による温度管理体制を整えており、鮮度を損なうことなく現地の消費者へと日本酒を届ける点では厚い信頼を得ています。ファビオさんは特に「Sake Education」に力を入れており、日本酒の知識と魅力をより広く伝えるため、自ら資格を取得した上で、レストラン関係者等への幅広い教育の機会を提供しています。奥様である玉置綾氏はAMAY pâtisserieを経営され、スイーツの専門家として活躍されています。ファビオさんが経営される「Restaurant Miyabi 」では、全てグルテンフリーにこだわりながら、寿司と酒とスイーツという異色のペアリングを楽しめます。
<世界に通じる「Japan Brand(ジャパンブランド)」>
ファビオさんのお話の中でも印象に残っているのは、「Japan Brand(ジャパンブランド)」についてです。様々な世界を見てきたファビオさんが「日本は世界一のブランドである」と断言される姿がとても印象的でした。近年の日本食人気の高まりを背景としつつ、ハイクオリティな日本の酒としての「日本酒」が普及するような体制が整いつつあるのだと実感しました。
<ブラジルで一極集中する日本酒市場>
次にブラジルにおける日本酒マーケットとして、その約40%がサンパウロ市に、そして半数を超える約55%がサンパウロ州に集中していると言います。特に和食レストランが集まる地域では、一国内の20%もの日本酒マーケットが集中しているそう。そんな中で日本食だけではなく、南米コンテンポラリー料理と日本酒のペアリングも人気を集めています。特に現地では、吟醸系のライトでフレッシュな味わいが人気で、日本食以外でもエクスクルーシブなレストランで幅広く取り扱われています。ただし輸入する際には、毎回検査が必要で、早くても1ヵ月/長いときには5ヶ月ほど、日本酒到着から販売開始までギャップが開く場合もあるそう。そんな中で、現地生産酒も登場してきています。安価な点もありマーケットを広げる可能性がある現地生産酒、そしてハイクオリティーで高級層に好まれる輸入日本酒、それぞれの強み、そして魅力があるのだと実感することができました。
ファビオさんの話からは、日本酒の認知拡大における「教育」の重要性と言うものを強く実感しました。特に日系コミュニティーにおける日本酒に対する古いイメージを脱却し、近年増えつつあるアメリカ人やヨーロッパ人などの観光需要に対する訴求など、新たな消費者層へのブランド確立が進んでいるのもその一環と言えます。
今回の日本酒海外市場開拓セミナーでは、日本酒業界を取り巻く現状について、実際に世界各地で活躍されている講師の方々から貴重なお話を伺うことができました。特に近年は日本食ブームやアニメなど日本文化の人気高まりを経て、日本の文化としての「日本酒」が受け入れられつつあるのだと言うことが印象的でした。私たちMiss SAKEとしても、四季折々の自然・伝統文化・職人技が融合した日本文化としての日本酒の側面を、より幅広く訴求していければと思います。
また個人的には、日本食と日本酒のペアリングだけではなく、現地料理と日本酒のペアリングが、高級レストランを中心に一般化していることを知り大変驚きました。ビールやワインが楽しまれる地域で、日本酒がどのような風味や飲用シーンを持つ酒類として受け入れられているのかを今後より深く知りたいと感じました。またすべての講師の方々に共通して感じたのは、日本酒に対する知識や理解を深めるための認知拡大の機会としての「教育」の重要性についてです。日本語だけではなく、多言語に対応した日本語教育資料の作成やセミナーの実施、そして一般ユーザにも向けたイベント機会の喪失など、様々な施策がこれから求められているのだと知ることができました。今後、こうした海外における日本酒事情をより深く知り、その上で国内に向けても海外への普及の可能性やニーズについて知ってもらえるような活動ができればと思っています。
私自身Miss SAKEとして、日本と世界をつなぐ架け橋として、これからも精進して活動して参ります。
2025 Miss SAKE Japan 館農知里


























