はじめに
1864年創業、愛知県北設楽郡設楽町に本社を構える関谷醸造株式会社様の吟醸工房(日本酒の生産量安定のみならず、伝統ある酒造りを後世に継承するためにつくられた酒蔵)にて、七代目関谷健様(東京農業大学)からMiss SAKEに特別講義をいただきました。
当日は①ご講義、②酒蔵見学、③利き酒の三部構成で初回にふさわしい盛り沢山な内容でした。
関谷醸造様の吟醸工房での酒蔵見学では2021 Miss SAKE 愛知大会のナデシコプログラム以来の2回目でした。初回は「大和撫子とは何か」自問自答してなかなか自分が出せずに聞きたかった質問などができず悔しい思いをしたので、今回は気合を十分にリベンジの酒蔵見学として参加させていただきました。
行きのバスでは中村事務局長の計らいもあり、愛知の地酒と関谷醸造様について概要を紹介させていただきました。歴史は古事記の時代に遡り、40以上の蔵がひしめく愛知の地酒の魅力、米作りやまちづくりにも力を入れる関谷醸造様について少しばかりですが、導入ができたのではないかと思います。
講義内容
関谷醸造様の取り組みを知るためのキーワードは3つです。
①顧客を飽きさせない新たな価値の創造、②CSRの徹底的追求、③地元に密着した日本酒造り(地域内流通)。
①顧客を飽きさせない新たな価値の創造
From Rice Field to the Tableをコンセプトに第一次産業:米作りから、第二次産業:酒造り、第三次産業:飲食店を経営しており、「日本酒」を中心に産業を融合することで第6次産業と呼ばれる新たな価値の創造を果たしています。
具体的に米や酒造り体験、オーダーメイドの日本酒造り、企業向けの研修や直売所、道の駅での日本酒造り体験コーナー設置、直営日本酒バー、通信販売などを産業の壁を超えてクロスボーダー的に取組んでいます。モノだけでなくコト(体験)を商品にするコトで、日本酒をより自分ごとに感じてもらい、他社と比較競争せずに唯一の価値を生み出し、日本酒を普及しています。
新規の顧客獲得のみならず量り売りや限定品、直営飲食店での飲み方の提案を行うなど参加型のプロモーションにより、顧客との距離を縮めて顧客を飽きさせない工夫を常にされている酒造様でした。従来の枠にとらわれず、日本で関谷様しかやっていない事業が多く存在しました。
②CSRの徹底的追求
多産業化は、地域課題解決への想いもありました。
農業においては、高齢化による農業の衰退を酒造りの蔵人としても当事者意識を持ち、退去する農家様の点在する土地を27ヘクタールもの広範囲にわたる田んぼで米栽培を育苗から収穫まで経営しています。また、循環型農業として米ぬかや酒粕と地域の牛小屋様の糞肥料と交換しています。
障害者支援として、障害者就労機関「みらい工房様」でのギフトボックスや商品の首掛け製造に加え、使用済みアルミキャップ回収による車椅子の寄付を実施されています。
③地元に密着した日本酒造り(地域内流通)
地元の生産物などの地域資源を用いることで『個性』ある酒造りに挑戦し続けています。具体的に地元のブルーベリーを使ったリキュールや創業150周年を機にプロデュースされた自社米を使った最高級酒「摩訶」などでファンを魅了しながら、地域の中が潤うような仕組みを実現しています。労働条件もホワイトに整備し地域の雇用を守ることで、圧倒的な信頼と存在感を築き上げ「地域の人からも愛され、必要とされる酒蔵」となっていることが理解できました。
<感想>
講義では日本酒造りの枠にとらわれず、課題解決にも貢献し、持続可能で人々の繋がりあう地域づくりを実践している熱い思いに触れることができました。かつての酒造りのあるべき姿:「大名による庶民の生活基盤造り」を衰退する農業の担い手となり、地域内流通で経済活動に貢献し、雇用を安定的に創出し続けるところに感銘を受けました。
私自身、日本酒関連でのみに行く際には糀MARUTANI様の商品力・プレゼン力に魅了され、名古屋で日本酒といえば圓谷様と信頼するようになりました。イオン様などの大きな企業様向けにも、オーダーメイドの特注日本酒にこだわり、日本酒造りを体験してもらうことによって、日本酒というものに愛着を持ってもらうことができ、日本酒をきっかけによりよい地域社会の創造にも影響する素晴らしい事業であると改めて実感じました。
酒蔵見学
2度目の酒蔵見学は深く理解し、追加での質問を複数自然にできるようになっており、自身の日本酒の知識面での成長を感じる機会となりました。以下は酒造りの工程のまとめです。
❶精米 (蔵の外での仕事)
食油の米の精米歩合が95-90%に比べ、酒造好適米は平均50%近くまで精米してあります。
❷洗米、浸漬
磨いているほど芯白まで水が浸りやすいため、タンクで水の温度を管理し時間を秒単位で測った上での「限定吸水」を徹底しています。洗ったお米は一晩明けてお米一粒一粒に均等に水を浸透させてから浸漬させるさせるのもブレない味の酒造りのこだわりの一つです。
浸漬具合で日本酒の味わいが大きく変わります!
辛口: 水の吸収させず酒米をかために仕上げることで発酵の時に溶けづらくなります。
ボディー感ある日本酒: 水をよく吸すわせることによりやわらかめのお米にすることで、発酵の際にお米の旨みがででてき、複雑な味わいを生み出すことができます。
吟醸工房様は軟水を利用していますが、お水の硬さは浸漬による味わいの変化にはあまり関係しないそうです。
❸蒸し
甑 500kg蒸せるものと電気甑100kg蒸せるものがあります。
500kgのお米では1000リットル、100kgのお米では200リットルの日本酒ができます
❹麹をつくる
糖化酵素:でんぷん(ぶどう糖の鎖: 棒状のアミロース)を48-50時間かけて麹を作ります。
もち米のブドウ糖はくねくねした鎖状です。
❺酒母づくり: 酵母の培養 酒造りのメイン 酒母(液体)
生酛(山おろし:ツルツルにさせる工程あり)・ 山廃・特上など
速醸: 乳酸を加える(乳酸菌を沸かせそこに、酵母を入れる)
酵母とは生き物で麹を食べて、アルコール(おしっこ)と炭酸ガス(おなら)をする。
グルテンを作る、パンの発酵と同様の仕組みです。
上手にもろみを作るには?
踊り 仲仕込み 留仕込みで温度を発酵しやすい温度に保ち増殖させていく。
酒母タンクは炭酸ガスの濃度が高いため窒息の危険もあります。
転落防止のために網目を設置していました。 タンクへ転落(即死)
大吟醸は30日35日酵母の培養にかかります!
❻圧搾
吟醸工房にあったのはヤブタ。地元半田の絞り機だということで、親近感を感じました。
伝統的な絞り方「槽」から絞りの担当者は船長さんと呼ばれています。
しぼりたての瓶詰め・ラベル接着前の日本酒を飲むのは脱税行為だそう。
酒粕を用いて醸造アルコールを自社製で蒸留して作っています。商品化された焼酎は吟醸グラッパとして食後酒などで販売されています。
利き酒
全7種類の日本酒を試飲させていただきました。日本酒初心者にもぴったりなマスカットぽい香りとすっきり後味に炊きたてのお米のような風味が残る「特別純米生酒」や、海外向けに新政や獺祭など6酒造が手がけるDJリッチボーゲ様のEnterシリーズ「Enter Sake GOLD」、心地よい苦味と深いお米の味わいのある「七」などそれぞれ個性豊かな日本酒に利き酒の魅力を再発見いたしました。
それぞれ味わいの違いをはっきりと出し「少量多品種」にすることによって、より多くのお客様をファンにし、日本酒の利き酒の楽しさを体験させてくれる心配りはMiss SAKEをPRしていく時においても参考にしていきたい学びとなりました。
最後に
Miss SAKEの活動が始まり、「ノムリエ」であった私が本格的に日本酒造りについて学ぶようになって以来持っていた疑問「酒造りのどの工程が日本酒の味わいを変えるのか」「年々減少傾向にある酒蔵が価値を創造する方法」「地域活性化・地域の基盤となる日本酒造りの存在」について、愛知を代表する酒蔵、関谷醸造様の関谷社長に直接伺える貴重な機会をいただけたことに厚い御礼を申し上げます。日本酒初心者だった私がこの数ヶ月間でみるみるうちに日本酒を好きになったように、私はMiss SAKEとして、たっぷり魅力の詰まった日本酒を好きになってもらう、手に取ってもらうきっかけづくりをできるよう初心を忘れずに活動していきたいと改めて強く思いました。日本酒を飲むことは「人生の楽しみ」「人生を豊かにする一つの選択肢」であることを人々と共有しながら、各所で蔵人様の酒造りを中心とした地域おこしの思いにも言及できる存在になっていきたいです。
バスの中での質疑応答にあった、2020 Miss SAKE 松井詩様のMiss SAKEとしての活動をとして特に学びとなったものは「責任感」であるというエピソードや、日本代表として他のファイナリストの思いを背負って人前に立ち、立ち居振る舞いなども磨いてこられたという姿から、Miss SAKEファイナリストに選出されたことをより一層気が引き締まる会となりました。
初回のナデシコプログラムをホームグラウンドとも言える、愛知県、関谷醸造様で迎えられたことが大変嬉しいです。筆末にはなりますが、関谷醸造株式会社 関谷健代表取締役社長、Miss SAKE事務局関係者の皆様に感謝申し上げます。