皆さま、こんにちは。一般社団法人Miss SAKE 代表理事 大西美香です。
早朝まで降り続いた雨が上がり、夏の陽射しがまぶしく差し込んだ8月12日(水)から13日(木)にかけて、山梨県北杜市白州町台ヶ原に誕生した、七賢の酒蔵オーベルジュ「宿場 esoto」を訪問させていただきました。今回は和酒コーディネーター・旅するフリーアナウンサー あおい有紀氏、日本酒スタイリスト 島田律子氏とご一緒させていただき、山梨銘醸株式会社 北原対馬社長に自らご案内いただきました。
仕込み水の源流、尾白川渓谷へ
1750年創業の「七賢」を醸す山梨銘醸は、甲斐駒ヶ岳の麓、旧甲州街道の宿場町として栄えた台ヶ原に蔵を構えています。小淵沢駅に到着すると、お出迎えの車で酒蔵へ直行するのではなく、まずは七賢の仕込み水の源流である尾白川渓谷へと向かいました。一杯のお酒が生まれる物語を、その始まりから辿る旅の幕開けです。
道中の甲斐駒ヶ岳神社には、水を司る龍神様が祀られていました。静かに手を合わせて旅の始まりをご挨拶し、吊り橋を渡り、せせらぎの音に耳を澄ませながらさらに河岸を歩いていくと、ようやく水源へとたどり着きます。この日は前日の雨の影響で水量が多く、力強い流れとなっていましたが、滝から舞う水しぶきのミストに包まれ、日々の慌ただしさがすっと遠のき、心身ともに澄み渡っていくような感覚を覚えました。
甲斐駒ヶ岳に降った雨は、約70年もの歳月をかけて地層をつたい、伏流水として七賢の酒蔵へとたどり着くそうです。いま私たちが口にする一杯は、70年前にこの山に降った雨の記憶をまとっている――そう思うと、一滴一滴がいっそう愛おしく感じられます。日本酒にとって生命線ともいえる”水”が刻んできた長い時間軸に思いを馳せながら、七賢とアラン・デュカス氏のコラボレーションによるチョコレートとコーヒーで一息。自然の偉大さを五感で感じる、贅沢なひとときとなりました。
土地とともに歩む、酒米づくりと酒蔵
その後は、今年から始まった七賢の自社田へ。初年度とは思えないほど、見渡す限り360度に七賢の田んぼが広がり、酒造好適米「夢山水」が栽培されています。すでに穂が出そろい、青々と育つ稲穂が風にそよぐ光景を前に、9月の稲刈りまで順調に実りを重ねてほしいと願わずにはいられませんでした。
途中、すいかの生産者「すいかばか」さまにも立ち寄らせていただき、みずみずしい山梨の旬の恵みを味わうひとときも。そして酒蔵では、明治天皇がお泊まりになった行在所のご案内や、日本酒のテイスティングも楽しむことができます。水、米、そして蔵へと、七賢の酒造りの原点を一つひとつ辿っていく行程に、この土地と向き合い続ける蔵元の真摯な姿勢を感じました。
一日一組の文化屋敷「宿場 esoto」
そしていよいよ、同じ旧甲州街道沿いに佇む「宿場 esoto」へ。2026年6月に開業したばかりの、一日一組限定の一棟貸しの宿です。門をくぐった瞬間、時間がゆっくりと流れ始めるような静けさに包まれます。明治40年頃の建築とされる古民家を改修した建物は、掛け軸や調度品、手入れの行き届いたお庭に至るまで、随所に細やかなこだわりが感じられるしつらえ。ご案内いただきながら、整えられた非日常の空間に身を置くうちに、心が自然とほどけていくのを感じました。
庭を眺めながらゆったりと過ごせる大浴場には、しっかりと冷やされた七賢のスパークリング日本酒も用意されています。湯上がりのほてった体に、きりりと冷えた泡がやさしく染みわたる――そんな至福のひとときが待っています。アメニティには、シャンプーやボディソープ、化粧水、パックなど、山梨銘醸のブランド「cojie」が揃えられており、滞在のすみずみにまで七賢の世界観が息づいていました。
七賢とともに味わう、山梨の美食
esotoでは、金田中などで研鑽を積まれた専属の料理人、新井氏が夕食・朝食共に対応くださいます。なるべく地の物を、と山梨の食材に工夫をこらされた、見目も麗しい和食のコースで、器の上に山梨の季節が映し出されるようです。連泊の場合には希望に合わせて天ぷらや別の料理を提供いただくことも可能だそうです。照明を落とした落ち着きのあるカウンターで、料理一皿ごとに合わせてペアリングされる七賢をいただく――なんとも贅沢な時間です。
※当日頂戴したラインナップ
なかでも、ジビエの鹿肉は口に含んだ瞬間に驚くほど柔らかく、時間をかけて丁寧に手を加えたからこそ味わえる繊細な旨味を堪能しました。絶妙な火入れに、深い感動を覚えたひと皿です。そしてこの鹿肉に合わせた蔵元推薦のお酒。料理とお酒が互いを引き立て合い、余韻が幾重にも広がっていく、素晴らしいペアリングでした。また、昨年のIWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)SAKE部門にてチャンピオン・サケに輝いた「白心」もいただくことができました。
お食事が終わった後のデザートは、ライトアップされたお庭を望む縁側へと場所を移してのご提供。やわらかな灯りに浮かび上がる庭を眺め、夜の静けさに包まれながらの食後のひと時です。そこに貴重な古酒を北原社長が持参くださり、七賢の酒造りに込められた想いを伺う、かけがえのない時間となりました。
美味しいお食事とお風呂を堪能し、はや就寝かと思いきや、地元山梨のクラフトビール、ソフトドリンク、勿論七賢の日本酒数種が冷蔵庫に取り揃えてあり、それらと共に、気づけば時間を忘れて夜中まで会話は続き…これこそ周りを気にせず過ごせる、まさに一棟貸しの醍醐味ではないでしょうか。
翌朝、清々しい朝の光の中でいただく朝食も、手間ひま惜しまず作られた小鉢が所狭しと並べられ、土鍋で炊いた炊き立ての白米と共に提供されます。普段はあまり朝からお米を食べないのですが、この日ばかりはお代わりをしてしまいました。お漬物から季節の果実を使ったデザートまで、本当に新井料理長のゲストへの愛情を感じるおもてなしのお料理でした。
今回の滞在を通じて、ただ宿泊するだけではなく、水源、田んぼ、酒蔵、そして宿へと、七賢の日本酒を通じて、八ヶ岳・白州の土地の魅力を全身で感じさせていただきました。一滴の水が長い年月をかけて酒となるように、一杯の日本酒の背景には、その土地の自然と歴史、そして人々の想いが幾重にも重なっていることを、改めて深く実感する機会となりました。日常から少しだけ離れ、水と米と人が紡ぐ物語に身をゆだねる――宿場 esotoは、そんな特別な時間を過ごせる場所です。季節を変えて、また必ず訪れたいと心から思える宿でした。
今後も我々一般社団法人Miss SAKEは、日本各地に息づく酒蔵の挑戦や、土地の風土を体感する新たな日本酒文化を丁寧に国内外へ発信し、日本酒の魅力と価値を世界へ届けてまいります。
最後になりましたが、心に残るおもてなしで温かくお迎えくださった山梨銘醸株式会社 北原対馬社長をはじめ、宿場 esotoの皆さま、そしてご一緒くださったあおい有紀氏、島田律子氏に、心より御礼申し上げます。
一般社団法人Miss SAKE 代表理事 大西美香




























































