【プログラム概要】
講師:
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- 株式会社コーポ・サチ代表取締役 平出淑恵様
- 日本肺癌学会広報大使、大阪歯科大学5年 富沢武士様
- 全日本仏教青年会第21代理事長 倉島隆行様、曹洞宗耕雲院副住職 河口智賢様
【活動内容】
この日の午前中は、酒サムライのコーディネーターでありながら、世界最大のワインコンペティションIWCに日本酒部門を設立されるなど、日本酒の海外進出に大きく貢献をなさってきた株式会社コーポ・サチ代表取締役 平出淑恵様から「Sakeからの観光立国」についてお話を賜りました。
午後には、2021 Mr SAKEグランプリでもあり、日本肺癌学会広報大使、大阪歯科大学5年生の富沢武士様より「教養としての口腔ケアと肺がん」について、そして全日本仏教青年会第21代理事長 倉島隆行様と河口智賢様から「夢を叶える、僧」についてご講義を賜りました。
【学んだこと】
①【平出淑恵様】日本酒は文化をまとったお酒?文化も一緒に伝えることの大切さ
平出様は、酒サムライのコーディネーターでありながら、世界最大のワインコンペティションIWCに日本酒部門を設立されるなど、日本酒の海外進出に多大なる貢献をなさった方でいらっしゃいます。
この日は「Sakeからの観光立国」というテーマで、これまでのご活動をもとに日本酒の海外進出についてお話を賜りました。
★日本酒の国際化に必要な3ステップとは?
平出様は、日本酒の海外進出を考える上では、今日ワインが国際的に消費されるようになるまでに辿った3つのステップを踏襲する必要があるとおっしゃっていました。
【ワインが国際化に至るまでに辿った3ステップ】
- 教育
- コンクール
- 宣伝活動
ワインを取り扱う一流の人たちに日本酒を扱ってもらうことで、日本酒を世界の酒にすることを目指し、平出様はまず「1. 教育」への一手として、マスターズ・オブ・ワインとイコールパートナーでもあり世界最大のワイン教育機関であるWSETに日本酒部門の開設を働きかけたといいます。そして2003年には、WSETのロンドン本校で初めてとなる日本酒講座を実施されることになったのです。
その後なんと、世界最大のワインコンペティションIWCのコーチアマンに就任したサム・ハロップ氏から「IWCに日本酒部門をつくるから手伝ってくれ」と声を掛けられ、「2. コンクール」が実現することに!
そして、世界に向けた日本酒のアンバサダーとなる「酒サムライ」のコーディネーターとして活動され、京都での叙任式を実施するなど多方向での「3. 宣伝活動」を続けられています。
こうやって見ると、平出様は日本酒の国際化を最短距離で推進されてきたように思えます。しかし、そこには特別なご縁があったと平出様はおっしゃいます。
★日本酒は文化をまとった国酒(こくしゅ)である
ロンドンに本部を置く世界最大のワイン教育機関WSETのロンドン本校で、平出様が日本酒講座を初めて実施された2003年、そこにはその年に最も良い成績でマスター・オブ・ワインに合格したサム・ハロップ氏が受講しにきていらっしゃったのだそうです。
その時、サム・ハロップ氏は「初めて状態の良い日本酒を飲んだ」と日本酒に対して強い興味を示されたとのだとか。
その後サム・ハロップ氏が来日する際に、日本酒の酒蔵を案内することになった平出様は、お知り合いであった富山県の老舗酒蔵「桝田酒造店」様の枡田社長に酒蔵見学について相談されます。しかし、枡田社長は「日本酒が文化を纏っているものだということをお見せした方が良い」とおっしゃって、結果的に京都の「月桂冠」様と「松本酒造」様にサム・ハロップ氏を案内されることとなったそうです。サム・ハロップ氏の来日では、酒蔵見学だけではなく、三十三間堂など京都の名所をお見せしながらアテンドされたとのことです。
「日本酒は文化を纏ったお酒だ」というフレーズが、私には非常に印象的でした。
日本酒の製造には、日本の主食でもある米が必須です。また、酒蔵見学で知ったことですが、日本酒の製造過程では潤沢な水を要し、これは日本が温暖湿潤気候の島国だからこそ得られた資源です。そして、麹菌の発芽には高い湿度と温度がマストです。全てを通して、日本酒は、大陸性の乾燥した気候では育まれなかった文化であることがわかります。
そんな日本酒は、(諸説あるものの)古来に巫女の仕事として始まったと言われる「口噛み酒」に起源を持ち、その歴史は実に長いと考えられています。
そういった歴史や文化を一緒に伝えることで、諸外国の方に日本酒の価値を伝えることができると平出様はおっしゃいます。
来日の際に京都の名所を見てまわられたサム・ハロップ氏も、日本酒の歴史や文化を感じることができたのではないでしょうか。
実際に、京都での酒蔵や名所巡りがきっかけのひとつとなり、サム・ハロップ氏が世界最大のワインコンペティションIWCに最年少でコーチアマンになられた際、平出様に「日本酒部門をつくるから手伝ってくれ」と声かけされるに至ったと平出様はおっしゃいます。
★古くから文化が育まれた土地「京都」「奈良」の境目で
私は京都と奈良の県境の、ギリギリ京都府側に位置する田舎で生まれ育ちました。実家のすぐ側には、国の史跡に指定されている前方後円墳「椿井大塚山古墳」があります。
幼稚園の遠足では東大寺の「大仏様の鼻の穴」をくぐり、中学の授業では歩いて興福寺の国宝館に行き、通学は奈良公園の鹿と一緒でした。大学時代は、京都・祇園のお茶屋さんでアルバイトをして、舞妓さんや芸子さんを側に見ながら花街文化を体感しました。
そんな奈良と京都を行き来できる自然豊かな田舎に生まれて、どちらの文化も身近に感じてこられたことは、本当に貴重な体験だったと今になって思います。
日本酒の国際化を目指すにあたり、古くからの日本文化を一緒に伝えることが価値であるというのは、私にとっては新しい気づきでした。灯台下暗しというように、身近にあったからこそ本来の価値に気づけていなかった私ですので、改めて地元京都や奈良の歴史・文化について学びなおし、国内外の方々に伝えられる人間になりたいと強く思いました。
平出様、貴重なお話をありがとうございました。
②【富沢武士様】幅広く知識と意見を持つ必要性
この日、午後最初のご講義では、日本肺癌学会広報大使でもあられ、大阪歯科大学5年生の富沢様より「教養としての口腔ケアと肺がん」に関するお話を賜りました。
★広く浅くでも、狭く深くでもなく、「広く深く」!
富沢様は、コンサルティングファームでの就業経験やMBAの取得、国会議員秘書のご経験を経て、現在は歯科医を目指して大阪歯科大学に通われながら実習のご経験を積まれていらっしゃいます。
そんな素晴らしいご経歴を更に輝かせるように、富沢様はなんと2021 Mr SAKE グランプリも受賞されています!
「日本酒のことだけじゃなく、幅広い知識を持ち合わせておくことが大切」という一言が、まさに富沢様を体現するお言葉だと感じました。
富沢様は様々なスペシャリティを身につけながらもひとつの分野に固執することなく、果敢にご自身の成長に向けたチャレンジをされていらっしゃいます。そんな「広く深く」な富沢様の精神が、非常に印象的なご講義でした。
★飲酒ひとつ取っても、様々な意見がある時代
日本肺癌学会の広報大使も務められている富沢様は、ご講義の中で喫煙がもたらす健康被害について言及なさっていました。
そのお話を聞きながら、私は飲酒に対して様々な意見が生まれつつある現代の健康意識の変容に考えを巡らせました。
私たちがPRしていく日本酒を含むアルコール飲料は、必ずしも全ての方からポジティブなイメージを持たれているものではないという現実に、私たち自身が目を向けるべきだと思ったのです。
そこで、富沢様にお聞きしてみました。
「様々なご意見やお立場の方がいらっしゃる中で、飲酒に対してネガティブな印象を持たれる方からのご意見をいただくこともあろうかと思います。富沢様のように歯科というスペシャリティを持たれていれば、歯科的観点でのご見解をお伝えすることができますが、そうではないファイナリストに対してアドバイスをいただけますか?」
「ネットを通じてなのか、直接なのかによっても異なる」というのが富沢様のご回答でした。
富沢様や2020 Miss SAKE Japanの松井様のもとにも、ネットを通じて様々な言葉を投げかけられることがあると言います。それに対するベストな対処法としては、下手に刺激せず無視することだと富沢様はおっしゃいました。
おそらく、不要な対立を生まないようにあえて距離を取るということではないかと理解しております。
私は、必ずしもネガティブな意見を持つ人から直接非難されるケースばかりではないと思っています。これだけ多様な意見が各所から相互発信される時代ですので、そういった現状を踏まえて、多様な価値観と飲酒行為が対立することなく共生できる社会を考えて発信することが私たちの役目であり課題だと考えます。
富沢様のご講義では、これまで考えたこともなかった日本酒を取り巻く課題に気づくきっかけをいただきました。時間が足りず詳細に踏み込めませんでしたが、いつか再びお目にかかれた折には、改めて富沢様のご意見をお聞きしてみたいと今からわくわくしております!
富沢様、貴重なお話をありがとうございました。
③【倉島隆行様、河口智賢様】日本人は無宗教、これってホント?
この日最後のご講義では、三重県津市にある四天王寺の住職であり、全日本仏教青年会第21代理事長でいらっしゃる倉島隆行(くらしま りゅうぎょう)様と、山梨県都留市にある曹洞宗耕雲院の副住職でいらっしゃる河口智賢(かわぐち ちけん)様より、「夢を叶える、僧」というテーマでお話を賜りました。
私は、水野敬也の著作『夢をかなえるゾウ』が大好きなので、ご講義のテーマをお聞きした時から「もしかして?もしかして?」と期待で目を輝かせながらも「いや、そんなわけないか・・・」と自分で自分の突飛な考えを封じこめようと必死でした。
最後まで倉島様と河口様に直接お聞きすることはできませんでしたが、おふたりは『典座(てんぞ)』という映画への出演を経て、カンヌ映画祭で批評家週間特別招待を受賞され、「カンヌ映画祭でお坊さんがレッドカーペットを歩く」という夢を、実際に叶えられたのです!
★映画『典座(てんぞ)』に見る、日本における仏教のいま
「典座」とは、禅宗の料理を司る役職のことで、料理をつくるという行為から生きることを学び、それを教えるのが役割だそうです。
”仏僧も、それぞれみなひとりの人間。仏教は果たして必要とされているのか?今こそ本当に信仰が求められる時代なのではないか。苦悩しながらも仏道に生きる若き僧侶の姿、そして高僧・青山俊董のことばを通じて、映画は驚くべき境地に観客を誘うことになる。”
上記は、おふたりが出演されている映画『典座(てんぞ)』の概要抜粋です。
河口様が演じるのは映画の主人公である”若き僧侶”。ひとりの人間としての葛藤を胸に、高僧・青山俊董に教えを請い、その言葉を通じながら「仏教は現在に必要とされているのか?」という壮大なテーマを携えて映画が進行していきます。
映画を観終わってから、「日本人×無宗教」に関する話題がファイナリストからの質問に挙がり、その際河口様がおっしゃった言葉が私の心に残っています。
「日本人は無宗教なのではなく、寛容なのだと思います」
仏教では、「柔軟心(にゅうなんしん)」と言って、異なる立場や価値観を互いに受け入れて尊重し合う心のことを表す言葉があるそうです。
一見いわゆる信仰がないように思えても、言葉の端々に仏教のこころは宿り、日々教えに触れることもある。気づいていないだけで、私たちは柔軟・寛容な心を持っているのだと捉えると、学ぶことはさらに多いのではないかと河口様はおっしゃいます。
なんて柔らかで敬意に満ちた考え方でしょう!この考え方が素敵だなと思う私のこころにも、もしかしたら仏教の考え方が宿っているのかもしれないと思うと、それだけでなんだか嬉しい気持ちになりました。
★素材本来の味「淡み」を大切にする日本人のこころ
映画は、精進料理における六味「酸塩甘苦辛淡」に合わせてストーリーが展開されていきます。この六味のうち、特に日本らしさを感じる味覚が「淡み」でした。淡みとは、素材本来の味を生かすという、精進料理における独自の味覚だということです。
私は、素材本来の味に目を向けるというこの感覚が大好きです。
季節によって旬のお野菜やお魚が異なる日本では、食卓を彩る食材が一年を通して移ろいで行きます。それに合わせて、いただくお酒の温度帯も変えて、それぞれの素材を一番美味しくいただけるよう工夫を凝らすというのは、食材に敬意を払った素晴らしい食文化と言えるのではないでしょうか。
と、ここまで書いて気づきました。
ほら!普段だと当たり前だと思って通り過ぎがちな「食卓の四季」においても、精進料理の考え・仏教の教えが反映されているではありませんか!
細部に目をやりながら日本の文化を見直すって、なんて楽しい行為でしょう。
今夜日本酒を飲む時は、お酒の「淡み」にこころの目を向けて、存分に味わってみたいと思います。
倉島隆行様、河口智賢様、貴重なお話をありがとうございました!