【日本の風土あってこその日本文化】
1日を通し「銀座スタイル 白鶴ビルディング」で行われた第10回ナデシコプログラムは、改めて、自身が生まれ育った”日本”への理解と愛が深まった時間となりました。
〜見渡す限りビルに囲まれた場所にあった、日本の原風景〜
午前の講義は、白鶴酒造株式会社 広報・営業サポート部 福本和美さま中心に、社員の皆様から白鶴酒造さまの事業についてのご講義がありました。
白鶴酒造様を代表する製品といえば、「まる」や「淡雪」など。
誰からも愛される、美味しいお酒ですよね。
そんなお酒を醸す白鶴酒造様は、兵庫県神戸市で1743年から酒造りを始められ、長い歴史を持つ酒造店です。
六甲おろしや米・水に恵まれていること、優れた人材が揃い樽廻船で灘酒が江戸に運ばれたことなど、酒造りに最適な条件が見事に揃っており、全国的に有名になられたそうです。
そんな白鶴酒造様が行っている注目の取り組みは、何と言っても白鶴天空農園です。
「銀座から日本文化の発信ができないか?」との思いで2007年から始まったプロジェクトで、なんと、銀座のど真ん中、ビルの屋上に、酒米を作る「農園」を作ってしまいました!
プランターから始まり、丁寧に手間暇かけ、今ではオリジナルの酒米が平均50キロも取れる様になったそうです。
実は私も、お米作りに携わった経験があります。
TBC東北放送の敷地内、電波塔の下に「ウォッチン!田んぼ」と名のついた田んぼがあり、毎年、代掻きから収穫まで全行程を行っていました。
新人の頃に、代掻きで転倒し泥まみれになった事はいい思い出です。
自分で田んぼを作ってみると、その工程の多さや管理の難しさ、自然災害による影響など、無事にお米を作るということだけでも想像以上の労力であることを身を以て感じます。
毎日の食卓で美味しいお米をいただけることへの感謝の気持ちがより一層深まった経験でした。
ただ、TBCは周りが緑に囲まれた八木山にある会社。田んぼがあっても、なんとなく馴染んでしまう場所でした。
一方、天空白鶴農園は銀座のど真ん中とのことで、一体どんな光景なんだろうと思いながら屋上に登り、驚きました。
ビルに囲まれた、小さなスペースに、芝生と畑とお稲荷さま。
大都会の中に、そこだけ切り取ったかの様に田舎の原風景が広がっていたのです。
また、屋上には当然、給水タンクや発電機などもありますから、スペースは本当に限られたものです。
ここを「農園にしよう」と思い立つ発想力と、結果的に50キロもの高品質な酒米を栽培したその労力。
全面コンクリートに生命を宿すというのは、並大抵のことではありません。
0から1を生み出した白鶴酒造の社員の皆様。そして、水、土、稲穂、すべての生命のエネルギーに心から感動しました。
屋上見学の後は、白鶴錦を使った日本酒のテイスティングもさせていただきました。
まずは、銀座で作ったお米で、銀座で醸した日本酒「MEDE IN 銀座」。こちらはなんと講義に合わせ、我々のために作ってくださったスペシャルな1杯。
前日に絞ったというそのお味は、今まで感じたことのないフレッシュ感!
お米の甘みと少しの酸味を感じ、さっぱりしつつ、後を追いかけるお酒の熱さがたまりません。
とても貴重な味覚体験をさせていただきました。
他には、日本酒を もっと楽しくもっと身近に感じてほしいとの思いから、若手社員の力でつくった「別鶴シリーズ」の3種類。
HPを拝見すると、「覗いて見てほしい 新しい日本酒の世界」とのキャッチコピーが。
なるほど、それで「ムシメガネ」「シュノーケル」「テレスコープ」の名が付いているのですね。
コンセプトとぴったりのネーミングと、覗ける様になっているラベル。なんてオシャレなのだろう。
それぞれテイスティングさせていただくと・・本当にお米でできているの?!と驚くほど、フルーティーな味わい!
どれも個性豊かな風味で、この味を引き出すためどれほどの研究を重ねたのだろう・・と、背景を想像し、より感動してしまいました。
また原材料も”兵庫産”にこだわっており、白鶴錦を使い、兵庫県産杉樽での短期間貯蔵をされていたりと隅々までのこだわりを感じました。
どちらのお酒も、天空白鶴農園を見学させていただいたからこそ、なおさら感慨深い気持ちでテイスティングさせていただきました。
(興奮冷めやらず、帰宅後早速「白鶴 別鶴黄昏のテレスコープ」を購入!届く日を心待ちにしております。)
また白鶴酒造様には化粧品部門もあり、三つのラインの製造を行っています。
酒粕の美白効果、甘酒の美容効果などを伺い、平安時代から美容の面でも愛されてきた日本酒の力を感じました。
この講義を通し、白鶴酒造さまは新しい可能性のタネを見逃さず、どんどん挑戦し、進化し続けている会社だと感じました。
私が抱くMiss SAKEとしての使命も、同じです。
先日の名古屋大学客員教授 佐藤宣之様の講義で痛感した、暗礁に乗り上げている日本酒の現状。
日本酒の明るい未来のためには、新たな可能性の模索と追求が求められます。
白鶴酒造さまの様に、新しいものを提案し続けられるアイデアマンでなければならないと感じ、使命感でいっぱいになりました。
〜目指すなら、日本人らしい美を〜
午後の1コマ目は、歌舞伎俳優 市川九團次様による講義です。
「板につく」「十八番」「修羅場」・・・
この世の中には、歌舞伎発祥の日本語表現が非常に多いですよね。
上にあげた例は有名ですが、調べてみると意外な言葉も出てきました。
例えば、
- 正念場・・・(以下、歌舞伎の意味)その役の本心を明らかにする大切な場面を「性根場」と呼んでいたことから転じた
- だんまり・・・暗闇という設定の舞台上で、数人の役者が一言もしゃべらず、探り合いをしながら動く演出
- めりはり・・・声をゆるめたり張ったりすること。台詞の抑揚をつけること
- ノリ・・・お囃子に乗って演技すること
(参考:Japan magazine)
など、これらはほんの一部ですが
現代語かと思っていた「ノリ」「メリハリ」の様な言葉も、意外にも歌舞伎から来ている事がわかりました。
これだけ多くの言葉が浸透していると言うことは、すなわちそれほど歌舞伎という文化が我々日本人に深く根付いていたという事。
この様に、歌舞伎は古くから日本人に愛され、その心の根底にあるものの一つであります。
ですが「歌舞伎とは?」と問われた時、何人が正確にお伝えできるでしょうか。
我々は日本酒に限らず日本文化の伝道師として、その定義をしっかりと知っていなければなりません。
九團次さまは懇切丁寧に、
- 歌舞伎そのものの成り立ちや歴史
- 有名な演目
- 歌舞伎の魅せ方
- 観劇の際のルール
などを我々にご教示いただきました。
色とりどりな声色を使い、物凄い眼力で語るその様子はまさに歌舞伎。最前列でこの講義を聴けることが本当に幸せでした。
特に印象的だったのは、九團次さまの目です。
目は口ほどに物を言うといいますが。九團次さまはその目の感情までコントロールし、まさに”完璧”な歌舞伎役者を”演じて”いらっしゃる様に感じました。
また、九團次さまの動きを見ていると、全てが洗練されているのと同時に、美しい魅せ方には明確な”型”の様なものがあるのだろうと感じました。
例として演じて下さったのは、女性の仕草です。
若い時はこう、妙齢になるとこう・・と、九團次さまがじわじわとからだをひねっていき、その型にハマった瞬間、目の前にいらっしゃるのが本当に女性かのような錯覚に襲われ、ゾクっとしました。
九團次さまの体の角度、手の配置、目線・・・所作の全てが完成されていたのです。
歌舞伎俳優という職業は、日本一”魅せる”ことなを知っている職業なのではないでしょうか。
表情で魅せる。仕草で魅せる。ことばで魅せる。完成された美の世界に、圧倒させられました。
歌舞伎の動きは、その型になるまで何年も何年も同じ動作を繰り返し、練習されるそうです。
「美」には正解はありませんが、「魅せる」には正解がある・・・つまりは身につけられるものであると感じました。
講義を受け感じた最も大きな気付きは、「我々日本人が”日本人らしく”美しくあるためのヒントは、歌舞伎の中にあるのではないか?」と言うことです。
海外の美と日本の美の基準は、また違います。
和装、生け花、手ぬぐい、歌舞伎・・など、日本の素となる文化を知る事で、我々日本人に適した”美しさ”が見えてくる様な気がしました。
九團次さまが「女性が女性を演じたら、我々は絶対に勝てない。」とおっしゃった様に、我々は日本人女性として、目指すべき型を見誤らず美しさを追求していけたら、と思いました。
〜辰巳様の一言で見えた、私の原点〜
「日本ワインは、日本酒と同じなんです」
驚きの説が語られた最終講義は、俳優 辰巳琢郎さまに教えていただく”日本ワイン”について。
近年注目されつつある日本ワイン。
その定義は「日本で作られたブドウ」で醸造された果実酒であることです。
では、日本酒とワインの違いは?と問われ、皆様はどう答えますか?
原料等様々な違いはありますが、辰巳さまが語る最も大きな違いは、「水を使うお酒」と「使わないお酒」とのことでした。
日本は良くも悪くも水に恵まれた土地です。
その中で、水をふんだんに使い育てられたお米と、たっぷりの水を使って作る日本酒が醸される様になったのは、ある意味同然のこと。
恵まれた環境で作られたからこそ、日本独自のものなのだということがよくわかりました。
ここまで聞いて、原料も、環境も、まるで違う2種類のお酒のどこが同じなんだろう?
と思いましたよね。
その答えは、テイスティングにありました。
頂いた3種の日本ワイン。どれもとっても美味しかったのですが、外国産ワインと違って圧倒的な存在感を出すものではなく、さっぱりすっきりしているものが多い印象。
この味わいは・・日本食に絶対合う!
日本ワインが日本酒と同じと語られた理由。それは、我々の舌によくなじみ、日本食の味わいをより引き立たせる食中酒として抜群の存在であるからでした。
ブドウは乾いたところでよく育つ果実なため、日本での栽培はなかなか難儀ではありますが、日本ワインの品質は上がりつつあり、中には海外のコンクールで金賞を受賞できる品質のものも出てきています。
とは行っても、日本で作られるワインの量はまだまだ少なく、日本ワインは「飲まれてないしつくられてない」現状だそうです。
世界が健康志向の流れになり、日本食が広まっている昨今。
必然的にお酒もそれに合う軽いものにに変わって行く流れがあります。
そこで力を発揮するのが日本酒や日本ワインだと、辰巳様はおっしゃいました。
日本にしかない品種で、日本にしかないワインを作る。
それは外国と比べられるものではなく、その先に日本ワインの新たな需要の可能性が広がっている・・・。
ここにも、”日本独自のもの”を大切にする精神がありました。
さて。実は、写真撮影の際こんなやりとりがありました。
「なんで局アナをやめちゃったの?地元なのに」と、辰巳様に問われたのです。
局をやめてから、何度も頂く質問でした。
理由はもちろん1つではなく、どれも一言で語れるものではなかったので
その時はなんとなくなお答えをしてしまい、家に帰ってからも悶々と考え込んでしまいました。
改めてお答えするならば・・・
その多くの理由の中の1つだったのが、「宮城県のことを宮城県の中だけで発信すること」への疑問でした。
勿論、地域密着で地元の方にローカルな情報をお届けすることは大切な発信です。
私も東日本大震災の際、地元のラジオにどれほど助けられたことかわかりません。
ただ、震災を経て、復興に向け歩みを進める地元の皆さんの話を聞くうち、「もっと県外の人に宮城県を知って、宮城に来て欲しい」「宮城の食が安全であることを知ってほしい」という思いが強くなったのです。
私がいた局は所謂”ローカル局”と呼ばれるもので、放送は宮城県内のみ。
全国の人に知ってもらうには、宮城県”外”の人に情報を発信する事が不可欠でした。
私は今、レギュラーで番組をやらせていただいているFM NACK5のある埼玉県に住んでいます。
ですが、私のトークの中には、埼玉の話題の中にかなりの割合で「宮城」が紛れ込んでいるのです。
宮城出身の方は「懐かしい!」と喜んでくれ、ゆかりのない方は「いってみたい!」とか、コロナ前であれば「この前斉藤さんが話していたここにいって来ました」等、多くの反響をいただけました。
FM NACK5は関東1都6県が放送エリアです。更に、全国的にファンが多い放送局なので、非常に多くの方に聞いていただけています。
あらゆる県の方から何百通という反響をいただける世界で、宮城県について知ってもらえる。
そこには、宮城にいた頃とはまた違う角度からの「地元を盛り上げている」感覚があったのです。
離れたからこそ見えた景色があり、離れなければできなかった貢献がある。
辰巳様の中に主軸として存在している「日本ワイン」を広める、盛り上げる思い。
辰巳様のお力添えあってか、”日本ワイン”という言葉は認められ、形になりました。
私も辰巳様のように、自身の主軸である「ふるさとを盛り上げる」をより強固なものとし、形にしていきたい。
辰巳さまの問いによって自分の軸を再認識し、想いを固めた1日でありました。
日本独自の文化の奥深さや稀少さに気付かせて下さった、白鶴酒造 広報・営業サポート部 福本和美さまをはじめ、ご講義に関わって下さった社員の皆様。
歌舞伎俳優 市川九團次さま、俳優 辰巳琢郎さま。
貴重なお話をありがとうございました。